歯は老化するか
年とったから歯も弱っちゃった・・・。
こんな風に言われることもよくあると思います。年で歯は悪くなるのでしょうか。
歯の病気は、むし歯と歯周病。多くを占めるのはこの2つしかありません。歯を失くす原因、歯を抜く理由となる病気というのもほとんどがおのずとこの2つと言うことになります。
むし歯の「原因」は飲食の頻度が高い事。それによって唾液による再石灰化(酸でダメージを受けた歯質の回復)が常時阻害されることでむし歯は起こります。よく言われる歯みがきは対策であって少なくとも原因ではないですね。
歯周病は歯にいつも多くの細菌が歯面に残り続けることによって歯肉の炎症が持続し、それによって歯肉の内側で歯を支えている骨が溶けてしまう病気です。細菌の存在が骨の吸収に結びつくわけですから、これには歯みがきが大いに関係します。
そしてこれらの歯科疾患はゆっくり進む、進行過程では症状がない、というのが特徴です。ですので相当悪くなるまでには数十年単位で時間がかかることが多いので、そうすると年とって歯が悪くなったと思うのも理解できる気がします。しかし、それにはちゃんと原因や進行するメカニズムと言うものがありますので、歯の病気を年のせいにはしないでもらいたいと思います。
では、むし歯と歯周病が大丈夫ならばヒトの歯は年をとっても若いころ生えてきたままでいられるのでしょうか。
年齢と言うよりは年月によって起こりうるダメージ要素を挙げてみます。
咬耗
歯を咬むのに使っていれば少しずつは擦り減りが起こります。ただ実際はこれも個人差が大きいもので、例えば歯ぎしりがある人と無い人ではかなり進み方に差がありますし、また果物など酸性の物を良く食べる人では歯が弱くなって擦り減りも大きくなります。通常は一生のうちで咬耗で歯を失くしてしまうほどのことはありません。
咬合性外傷
これも咬むことに関連したものですが、咬む力は歯からその歯を支える骨に伝わっています。この力が大きく長い期間に及ぶと顎の骨が破壊吸収されます。多くの場合歯周病と重なって起きるので大変厄介です。さらには歯が割れるということも起こります。これも多くの場合むし歯の治療をした歯は構造的に弱いので、そのような歯には起こりやすく、時に力のある男性などでは健全な歯でもひび割れて歯髄に感染が起こることもあります。
歯髄腔狭窄
ヒトの歯は、それが形作られる際に外側から内側に向けて作られ、歯を作った組織の名残が歯髄となって歯の内側で血液を供給しています。その過程は歯が生えてからも少しずつ起こり、とりわけむし歯ができるとその細菌の刺激が歯髄に伝わって歯髄を守るために歯の内側にさらに歯を形成する=歯髄が狭窄するということが起こります。年齢の高い方ほど歯髄が狭窄しているので、その段階でむし歯の治療として歯内治療が必要になると歯髄腔が狭くなっていているので治療が難しくなります。
またむし歯は子供のころから大人になるといったん少なくなりますが高齢者ではまた増えるといわれています。これは唾液の減少などもありますが、歯髄腔狭窄により歯内の血流量が少なくなって歯髄側から歯にミネラル分を補充するという形での再石灰化能が低下していることによることも考えられます。
歯は基本的には年で悪くなるものではなく、病気がその根拠をもとに着々と進んで悪くなるものです。ただそれが通常はゆっくり進み、また悪くなってからは進むスピードが速まるので、年で歯が悪くなったと感じられるわけです。歯の健康は多くの場合原因があって結果が出るというものなのです。つまり起こさない・ならないようにすることができる病気です。それなのに悪くしちゃったらもったいなくないですか?ご自身の健康問題を時代に即した賢い戦略で維持増進してほしいと思います。
