差し歯とは?歯の神経?
「歯を抜いたら差し歯ですか?」
「この歯は差し歯ですか?」
などど聞かれることがしばしばあります。昨日も聞かれたので今回はこれについて解説したいと思います。
現在、歯科治療上の専門的な用語として「差し歯」というものはありません。また多くの方がそれの意味するところがあいまいな状況で使っているようです。むし歯とその治療のコンセプトについて理解していただけるとイメージが湧くと思いますし、それによって自分の歯を守ることにも繋がることだと思います。
よく「歯の神経」と言いますが、歯の中に神経が通っているというのは実情とやや異なります。実際は歯の中心部には「歯髄」という組織があり、簡単に言うと血が通っているのです。生きている組織があるので血管も神経も通っているのですが、歯髄=神経というわけではありません。
その歯髄までむし歯が到達すると歯の中の生きている組織に細菌が入っていきます。激痛が出ることもありますし痛くないこともあります。ただ歯髄組織は腐ってしまいます(歯髄への感染)。むし歯が深いと言うのは、治療上この様に歯髄まで達するか、もしくは近づいているのかということを考慮して言います。歯髄への影響がほぼなさそうな時、むし歯が浅いと言うわけです。
むし歯が歯髄まで達すると多くの方が経験されている「根っこの消毒」=歯内治療となるのです。歯髄腔内を物理的・化学的に清掃し、細菌に対しての消毒を行います。そのうえで歯髄腔を充填剤でふさぐことで歯の内部の感染を制御し、その歯を便宜的に生きているものとして扱い再び物を咬むことなどに使えるように歯の形を人工物で再建します。
歯内治療を行った歯には血が通っていません。そして歯質も大きく喪失しています。それを再建するためにはまず歯の形と強度をつくるため「コア」と言う土台のパーツをまず作って歯に装着します。これでまず台座の形にまで再建してその上に歯の形のもの(クラウン)をスポっと被せるようにします。このコアは歯髄腔を削って広げそこに差し込むようにして歯に固定しますので、これが傍から見れば「差している」ように見えますね。このような構造で歯の形を再建することで、丈夫さ、精密さ、作りやすさ、などを向上して治療は行われています。
しかし、かつてはこの様な認識で治療がなされておらず、コアとクラウンを一体型で作って歯の根っこに「差し込むように」装着していました。これを正しくは「継続歯」と言い、いわゆる「差し歯」とも言っていたわけです。しかしこの方法だと歯髄腔内は内側性、歯を覆う部分は外側性なので、いっぺんに作るとその際にどうしてもできる「誤差」が大きくなるという問題があり、継続歯は近年は行われていません。なので差し歯と言うものは現在ではほぼ存在せず、私はこの様な時には自分の歯の根に支えられた「人工の歯」ですよ、と言うようにしています。ただし最近はCADCAMというデジタル的な方法で歯型を製作するようになりつつあり、大臼歯では一体型の物を機械で削り出して誤差なく作るものもあります。
冒頭の問いの答えは、歯の根っこが残っていてそこに差し込む形で治療するのが失活歯(歯髄を取った歯)の治療方法であり、歯自体を抜いたら根っこはないのでそこに歯の形が来るとしたらそれは「入れ歯」です。隣の歯を利用して歯の体裁を作るのは歯と歯を橋渡しする「ブリッジ」です。両者とも「義歯」と呼びます。(入れ歯は可撤性義歯、ブリッジは固定性義歯と言います)
失活歯は生活歯に比べてずっと弱く脆い、むし歯になりやすく割れたりしやすい、そして悪くなっても痛くなれない歯です。そもそも、むし歯になった実績のある部位に今も存在している歯です。ぜひご自身の歯が生活歯か失活歯かを意識して歯のメインテナンスに取り組んでください。多くの方がむし歯の治療を一緒くたにして考えているのではないかなと思いますが、これはひとつの大きな要素であることを認識していただきたいです。未来の自分の歯を守るためには。